優しい人って、たまにものすごく空っぽ。

夜道を歩いていたら、ふいに思い出した人がいた。
別に強い感情が残っていたわけじゃない。
でも、そのときの疲れ方が、ちょっとだけ印象的だった。

数ヶ月前、ある男性と会った。
何度かやりとりをしていて、少し気が進まなかったけれど、
予定も空いていたし、もう一度だけ会ってみることにした。

彼は、よく「やさしそう」と言われるタイプだった。
物腰が柔らかくて、声も落ち着いていて、誰に対しても当たりがいい。
でも話してみると、なぜかずっと空気が軽かった。

こちらが質問をしても、返事は曖昧。
すぐに「そっちは?」と投げ返してくる。
話題を深めようとする気配がどこにもなかった。

最初は人見知りなのかなと思った。
でも、少しずつわかってきた。
たぶん彼は、ただ“考えてこなかった人”だったのだ。

自分のことを言葉にする習慣もなく、
誰かと過ごす時間に意味を持たせようとしたこともなく、
過去の恋愛から何かを学ぼうとしたこともない。
「前の彼女には、冷められたっぽい」
彼がそう言ったとき、妙に納得してしまった。
そうだよね。
きっと彼女も、ずっとひとりで会話を続けていたんだろうな、と。

でもそれは、いわゆる“ヤリモク”のような分かりやすい軽薄さではなかった。
むしろ、もっと静かで淡々としていて。
本人はきっと「普通に接してるつもり」だったと思う。
ただ、誰かと関係を築くってことがどういうことか、考えたことがない
反省も、工夫も、距離感への意識もないまま。
なんとなく人と会って、なんとなく流れに身を任せていた。

やさしさの顔をして、思考がない。
波風も立てないけれど、心にも触れない。
それが一番、疲れる。

帰り道、夜風が顔に当たって気持ちよかった。
そのとき初めて、あの会話の中で感じていた息苦しさが、すーっと抜けていった。
やさしそうな人が苦手になったわけじゃない。
でも、これからはその奥にある“考える力”や“関わる姿勢”をちゃんと見ていこうと思う。
静かな夜の散歩が、ちゃんと心を落ち着けてくれるように。
私も、そんな関係を選んでいきたい。 

投稿者: 夜中散歩

感じたことを、感じたままに。 小説の裏話、映画や音楽の感想、ちょっとした日常のことなど、 その時々で心に残ったものを雑多に書いています。 noteではフィクション(小説)を中心に書いています。 感情がにじむものが好きな方はぜひ、そちらもどうぞ。

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